マッコウクジラの漂着について

2024年3月12日(火)に、厚内漁港北東側の砂浜に、マッコウクジラの子供が漂着しました。

博物館へは同日15時ころに厚内公民館および通過中の根室本線特急列車乗客より電話で連絡が入りました。

町議会予算審議終了後、16時ころに現場へ急行し、実際の漂着個体を確認し、漂着鯨類の調査を実施している研究者団体である「ストランディングネットワーク北海道(SNH)」へ、現場から第一報を入れました。

その後、海岸管理者である北海道十勝総合振興局帯広建設管理部浦幌出張所や、当町役場産業課の水産係と連絡をとりながら対応を協議し、調査研究については当館で対応することとなりました。

博物館法では第3条三で「博物館は・・・(中略)・・・地方公共団体、学校、社会教育施設その他の関係機関及び民間団体と相互に連携を図りながら協力し、当該博物館が所在する地域における教育、学術及び文化の振興、文化観光その他の活動の推進を図り、もつて地域の活力の向上に寄与するよう努めるものとする。」と定めており、当館には、地域における学術研究を支援して、その成果を地域に蓄積する役割があります。

漂着当日のクジラの様子

学芸員が現場に到着した時点で、クジラはまだ生きていました。目を開け、尾びれを動かし、体を膨らませて呼吸をし、ときどき小さく鳴いていました。

翌日13日の7時〜8時頃の間に細かな計測や観察を行なった時点でも生きていましたが、博物館へ引き上げたのちにクジラが死んでいるとの電話が入り、10時頃に現場へ急行して当館としても死亡を確認しました。

ただちにストランディングネットワーク北海道へ死亡を連絡し、14日早朝より解体調査が実施されることが決まりました。

14日は8時から15時ころまで、同団体のメンバーである函館の北海道大学水産学部と帯広畜産大学の研究者により、現場で解体調査が実施されました。

まだ成長していない歯と、母乳を飲む年齢の個体だけに見られる特徴的なヒダの見られる舌

調査の結果、個体はマッコウクジラのメスで、体長は4.8m、まだ乳離れしていない程度の子供の個体と思われました。

解剖所見では、肺の中に気泡が見られたため、直接の死因は溺死と推定されています。胃の内部にも固形食物は見られませんでした。溺死以前になんらかの理由で衰弱して浜に挫傷し、高波の影響もあって溺死したものと思われます。

マッコウクジラの漂着は年に1〜2回あるか無いかと言われ、特に十勝沿岸で生きたマッコウクジラの子供が漂着した事例は記録に見られません。このため、当個体はクジラ類の生物学的知見を得る上で、とても貴重な研究資料となります。

当初は全身骨格を採集する予定でしたが、重機が無いと頭部の移動や回転、頸部との切断等が難しいとわかり、時間的な制約からも骨格標本の採集は断念されました。しかし、さまざまな研究用サンプルが得られ、有益な調査となりました。

クジラの解体調査のようすを見学し、ストランディングネットワーク北海道の黒田氏から説明を受ける浦幌小学校の生徒たち

また、14日は日立建機エコスクールの実施日であったため、浦幌小学校のこどもたちが調査のようすを見学しました。

調査は14日15時頃には終了し、翌15日朝のうちに、帯広建設管理部が委託する業者さんによって、解体残渣などの漂着クジラ死体一切は浜辺に埋め立てられました。

博物館では今後、今回のクジラの漂着記録についてまとめ、次年度の当館紀要等に記録として残す予定です。

当館がストランディング個体の調査に協力するのは、これが初めてとなりました。

初動対応、関係部署との連絡調整、残渣処理など、今回みえてきた課題や反省点を活かしながらワークフローなどを作成して役場内で共有し、次の漂着に際してはより円滑に処理が進むよう、備えたいと思います。

調査を行うストランディングネットワーク北海道の研究者たち。6名のメンバーが函館と帯広から駆け付けた。
漂着したマッコウクジラの顔の部分

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